「近況報告」 ―最近お受けするインタヴューの内容などについて自分でまとめてみました。

―10月の坂本龍一連続コンサートについて

もともと、坂本龍一氏の作品は、「ピアノワークス1・2」と最近発売された「ビートルズピアノトランスクリプション」のなかでも取り上げており(マジカルミステリーツアーの編曲)、なじみの深い作曲家でした。今年より、新しく日本交響楽協会にマネージメントを委託することになり、そこのお誘いで4日間の連続コンサートが実現いたしまして、構想がどんどんふくらんでいきました。今回のコンサートシリーズは作曲家としての坂本龍一氏を体系的に一望できる、大規模で画期的なものです。ピアノ曲としてCD・ライヴコンサート・その他のメディアで発表されたものはごく一部のライヴヴァージョンを除きほぼ網羅してあります。「戦メリ」や映画音楽、「エナジーフロー」をはじめとするTV・コマーシャル作品はもとより、坂本氏が芸大時代に作曲された実験的作品「分散・境界・砂」や、また今回が世界初演となる「ヴァイオリンソナタ」、プリペアドピアノ作品などをも含む、これまでに類を見ないものです。現代音楽作曲家として「分散・境界・砂」でクラシック楽壇デビューし、その時前衛的と評されたこと、またポップスの分野でいかに人のハートをつかんできたか、それらの軌跡を概観することによって、普段ほんの一面しか知られていない彼の、真の存在が浮かび上がってくる、そんなコンサートにしたいと思っています。坂本氏はいろいろな作風をもっていらっしゃるかたで、なかなか「こうだ」と一色で言い表しきれない、複雑かつ奥の深い面をもったかたですので、そんなところがコンサートでさぐっていけたらと思っています。

ーコンサートで共演されるかたがたについて

小沼純一(解説)
八塩圭子(ナビゲーター)
長野延吏子(オブジェ)
平野公崇(サックス=22日)
松尾貴志(朗読=23日)
篠崎史紀(ヴァイオリン=24日)
唐澤まゆこ(ソプラノ=24日)
JDヒクソン(クラリネット=26日)
 
小沼さんには、4日間をとうして解説をお願い致しています。アナウンサーの八塩さんとのトークです。早稲田大学では「矢野彰子と戦後」という講座も受け持っておられ、とても頼りにしています。長野さんのオブジェは舞台に飾られます。サックスの平野さんとは22日に「戦メリ」と「東風」で共演、俳優の松尾さんとは「分散・境界・砂」の朗読をお願いしております。ヴァイオリンの篠崎さんとは24日にヴァイオリンソナタで共演、ソプラノの唐澤さんとは23日の「ソングブック」で共演、クラリネットのJDヒクソンさんとは26日に「Lost Child」 「変革の世紀」での共演です。篠崎さんはN饗のコンサートマスターで、坂本氏ご本人とは「変革の世紀」CDや「ライフ」などで何回も共演されておられ、とても頼もしいです。JDヒクソンさんとはNYでデュオを組んでいますから気心知れていますが、平野さんと唐澤さんとははじめてご一緒しますので今からとても楽しみにしています。あとは、コンピューターも共演者となる予定で、22日の「戦メリ」と「1919」では、ピアノの音をコンピューターに打ち込んでさまざまに変化させたものをスピーカーから流す予定で、現在作成中です。

特に録音では、トランスクリプションのほうにご興味が?

どうして編曲なのかというご質問はよくお受けするのですが、やはりいろいろな意味でひとつの挑戦だと思います。たとえばマーラーをどうしてピアノで弾く必要があったか?と いうことですが、マーラーはオーケストレーションの天才であり、それを取り去ったときに見えるマーラーの音楽の核みたいなものを描きたかった、ということでしょうか。自分である程度編曲にも手をいれたわけですが、マーラーがどうしてピアニスティックである必要があるのか、という問題は、音楽とインストルメンテーションの微妙な関係の問題を含んでいます。逆にいえば、マーラーはピアニスティックにピアノでも語れてしまうということを証明することによって音楽とはなにかという問題に応えたかった、または問題提起をしたかったということです。


―ご自身で作曲や編曲をなさることについては?

本当は作曲にも力を入れたいのですが、どうも時間と才能がないようなので…それより、将来はいちど指揮をしてみたいと思っています。

ー今後、力を入れたいと思う作曲家や作品は?

スクリャービンはライフワークとして取り組んでいきたい作曲家のひとりです。すこし編曲ものなどで録音では遠ざかってしまいましたが、また取り組みたいと思います。近々、またスクリャービンに戻るつもりです。

このところ「ビートルズピアノトランスクリプション」CDの発売といい、偶然にもクロスオーバー続きとなっていますが、わたしなりにクロスオーバーレパートリーには独特の意義を見出しています。武満徹氏が映画音楽やポップスに携わる理由を「自由へのパスポート」という言い方で表現していましたが、その感じに限りなく近いです。  自分のレーベル、シャトーでは、問題提起、または既成概念をくつがえすようなりリースを続けていきたいと思っています。これからもスタンダード、ノンスタンダードレパートリーと限らず、自分の信念に忠実な録音、コンサート活動を展開していきたいと思っていますので、常に自分の感性を磨いていきたいです。